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「有事の金、有事の円」と言われるように、リスクが意識される場面では金とともに円も買われる——という説明を目にすることがあります。ではこの2つは、本当に同じタイミングで動いているのでしょうか。当サイトの金価格ウォッチは金・銀・プラチナの価格を毎時取得し、ドル円と並べて記録しています。今回はここに溜まった1年分のデータで、「金が上がった日、ドル円はどうなっていたか」を数えてみました(2026年8月28日時点)。
・金(ドル建て)とドル円の日次相関は、1年通しでどれくらいか(250日)
・金が2%以上急騰した29日、ドル円は円高に振れていたのか
・その関係が「今」は例外的な状態にあること
結論:1年通しではほぼ無相関(r=−0.07)。急騰日も上昇15回・下落14回でした
集計期間は2025年8月28日〜2026年8月27日、日次の変化率が取れた250日が対象です。金(ドル建て・COMEX先物)の日次変化率とドル円の日次変化率の相関係数は−0.07でした。相関係数は−1〜+1の値をとり、0付近は「連動していない」ことを意味します。つまりこの1年を通して見る限り、金とドル円の日々の動きに安定した結びつきは見られませんでした。
もう少し直感的に、金が大きく動いた日だけを取り出してみます。金が+2%以上急騰した日は1年間で29回ありました。その日のドル円は、円安方向(ドル円上昇)15回・円高方向14回で、平均は−0.12%、中央値は+0.04%。「金が急騰した日は円も買われる」という形にはなっておらず、ほぼコイン投げに近い分布でした。ちなみに最も大きく円高に振れたのは2026年1月26日の−2.10%、最も円安に振れたのは2026年1月12日の+0.81%です。
検証の中身:金の騰落レンジ別に、ドル円の同日変化を並べる
金の日次騰落を4つのレンジに分け、それぞれの日のドル円がどう動いたかを集計しました。比較のため、全250日の平均(=この1年のドル円のベースライン)も並べています。
| 金(ドル建て)の当日騰落 | 該当日数 | ドル円の平均変化 | ドル円が上昇(円安) | 上昇率 |
|---|---|---|---|---|
| +1%以上 | 73日 | +0.019% | 40日 | 54.8% |
| 0〜+1% | 70日 | +0.004% | 41日 | 58.6% |
| −1〜0% | 55日 | +0.036% | 35日 | 63.6% |
| −1%以下 | 52日 | +0.086% | 34日 | 65.4% |
| (参考)全日 | 250日 | +0.032% | 150日 | 60.0% |
方向としては、金が下げた日のほうがドル円は上がりやすい(=円が売られやすい)という、ごく弱い逆相関の並びになっています。ただし差はいずれも0.1%未満で、上昇率も全日平均の60.0%から±6ポイント程度。これを根拠に取引の方向を決められるほどの差ではない、というのが正直な読み方だと思います。
期間を区切ると、関係は入れ替わる
興味深いのは、この相関が期間によってかなり振れることです。同じデータを窓を変えて計算すると次のようになりました。
| 集計窓 | 金(ドル建て)×ドル円の相関 |
|---|---|
| 全期間(250日) | −0.07 |
| 直近90日 | +0.09 |
| 直近60日 | +0.11 |
| 直近30日 | +0.33 |
30日ずつずらしながら相関を計算した推移が下のグラフです(221日分)。
221日分の30日相関は、最小−0.45(2026年4月20日)から最大+0.35(2026年8月21日)まで動いており、中央値は−0.08。プラス圏だったのは221日のうち78日(35%)で、期間の大半はゆるい逆相関でした。そのなかで+0.3を超えたのは13日だけ、しかもそのうち12日が2026年8月に集中しています。8月27日時点の+0.33は、この1年で4番目に高い水準です。「金高と円安が同時に進む」という、通説とはむしろ逆向きの並びが足元では強まっている、という形になります。
出典:金価格ウォッチ(/gold)のデータより集計。金はCOMEX金先物(ドル/oz)、ドル円は日足終値ベース。2026年8月28日 09:30更新分のデータを使用、対象は2025年8月28日〜2026年8月27日の251営業日(日次変化率250件)。
円建てで見ると景色が変わる:1年で+46.4%のうち+9.5%は為替
もう一つ、日本に住んでいると効いてくるのが「円建てで見るといくらか」です。この1年の金は、ドル建てで3,431.8ドル/oz→4,647.7ドル/ozの+35.4%。一方、円建て(円/g換算)では16,254円→23,797円の+46.4%でした。同じ期間にドル円が147.316円→159.255円と+8.1%動いたぶん、円で見た上昇率が上乗せされています。対数で分解すると、+46.4% = ドル建て要因+36.9% + 為替要因+9.5%という内訳になります。
この為替の効き方は月によってかなり変わります。暦月ベースで為替要因の寄与を出すと、最も効いたのが2025年10月の+3.70%、逆に最も足を引っ張ったのが2026年1月の−2.26%でした。直近の2026年8月は、ドル建てが+14.78%と大きく伸びた一方でドル円が−0.58%だったため、円建ては+14.12%と、為替が−0.67%ぶん削る形になっています。
注意点:この検証で言えないこと
まず期間が1年(250営業日)と短く、この間はドル建ての金が+35%上昇した特殊な相場でした。金が下落トレンドだった時期を含めれば結果は変わり得ます。また急騰日のサンプルは29回しかなく、上昇15回・下落14回の差は誤差の範囲と考えるべきです。
もう一点、これは日足終値どうしの比較なので、「同じ日に起きた」ことしか分かりません。金がニューヨーク時間に動き、ドル円が翌朝の東京時間に反応する、といった時間差のある連動があっても、この集計では拾えていません。さらに、金もドル円も米金利やドル指数といった共通の要因から影響を受けているため、相関の符号が変わったこと自体が「金がドル円を動かした」ことを意味するわけではない点にも注意が必要です(同じデータページでは、金とドル指数の30日相関が−0.44、米10年金利との相関が−0.11となっています)。
金・銀・プラチナの円建て/ドル建て価格、要因分解、ドル指数・米金利・ドル円との30日相関は金価格ウォッチで毎時更新しています。相関の符号や強さは今回見たとおり数ヶ月単位で入れ替わるので、通説として覚えるより、そのつど数字を確認するほうが実務的だと思います。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘・投資助言ではありません。売買の判断はご自身の責任でお願いします。(2026年8月28日執筆)

