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「9月のドル円は円高になりやすい」——日本企業の中間決算に絡んだレパトリ(資金の本国回帰)や、米国株が荒れやすい時期という理由づけとともに、毎年この時期に語られる為替のアノマリーです。ただ、この手の通説は「そう言われている」だけで、数字で確かめられる機会はあまりありません。
そこで、当サイトが毎日自動更新しているカレンダーアノマリーDBと、そこで使っているのと同じドル円の日足を使って、過去20年ぶんの9月をすべて数え直しました。集計時点は2026年8月31日、明日から始まる9月を前にした答え合わせです。
・過去20年(2006〜2025年)の9月は平均 +0.36%・陽線率 50% で、ほぼ五分だったこと
・2006〜2015年は平均 −0.29%・陽線率30%、2016〜2025年は平均 +1.01%・陽線率70%と符号が逆転していること
・9月の中では前半(1〜15日)が弱く、後半(16日〜月末)が強い偏りが20年通してあること
結論:20年平均ではほぼ五分。ただし前半10年と直近10年で符号が逆
過去20年(2006〜2025年)の9月、ドル円の月初終値→月末終値の変化率は平均 +0.36%、中央値 −0.14%、陽線率(円安で終えた割合)50%でした(n=20)。最大は2014年の +5.01%、最小は2009年の −3.06%です。少なくとも「9月は円高に振れやすい」と言い切れるほどの偏りは、20年をひとまとめにした数字には見当たりません。
ところが10年ずつに割ると景色が変わります。2006〜2015年は平均 −0.29%・陽線率30%(10回中3回しか円安で終えていない)、2016〜2025年は平均 +1.01%・陽線率70%と、平均も勝率もきれいに反転していました。「9月は円高」という言い回しは、どちらかといえば前半10年の記憶に近いもの、という結果です。
図1: 9月のドル円 騰落率(年別・2006〜2025年の20回/出典: カレンダーアノマリーDBと同じYahoo Finance日足から再集計・2026年8月31日時点)
検証の中身:12ヶ月の中の9月、10年ごとの9月、月内の9月
① 12ヶ月の中では「特に強くも弱くもない月」
まず全体像です。月別の平均騰落率(過去20年)を見ると、9月は+0.36%・陽線率50%で、円安方向に強い順に並べて12ヶ月中4位(12月と同値)。円高方向に目立つのはむしろ7月(−0.91%)と1月(−0.52%)で、8月(−0.40%)がそれに続きます。
図2: ドル円 月別の平均騰落率と陽線率(過去20年・2006〜2025年/出典: カレンダーアノマリーDB・2026年8月31日時点)
値動きの大きさで見ても9月は静かなほうです。9月の1日あたり平均値幅は81.7pips(n=427日)で、20年全体の平均85.6pips(n=5,187日)の95%。12ヶ月中11番目の小ささでした(最小は10月の80.5pips、最大は1月の91.5pips)。「9月は荒れる」という印象も、日足の値幅にはあまり表れていません。
② 10年ごとに割ると平均も勝率も反転していた
区間ごとに整理したのが下の表です。中央値まで見ると差はさらにはっきりして、2006〜2015年が−0.72%、2016〜2025年が+1.71%でした。
| 区間 | 件数 | 平均 | 中央値 | 陽線率 | 最大 | 最小 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 9月(全20年) | 20 | +0.36% | −0.14% | 50% | +5.01%(2014年) | −3.06%(2009年) |
| 9月(2006〜2015年) | 10 | −0.29% | −0.72% | 30% | +5.01%(2014年) | −3.06%(2009年) |
| 9月(2016〜2025年) | 10 | +1.01% | +1.71% | 70% | +3.69%(2022年) | −2.46%(2024年) |
| 9月前半(1〜15日・20年) | 20 | −0.09% | −0.23% | 40% | +3.04%(2014年) | −3.52%(2008年) |
| 9月後半(16日〜月末・20年) | 20 | +0.45% | +0.52% | 60% | +2.32%(2017年) | −1.76%(2013年) |
出典: カレンダーアノマリーDBと同じYahoo Finance日足(JST日付・月初終値→月末終値)から再集計。集計時点 2026年8月31日。
実際のチャートに9月を重ねたのが次の図です。2016年以降で円安方向に大きく動いたのは2022年(+3.69%)・2023年(+2.66%)・2017年(+2.12%)・2018年(+1.99%)で、いずれもドル円自体が上昇トレンドにあった年でした。一方で2024年は−2.46%と大きく円高に振れており、直近10年でも9月が必ず円安になったわけではありません。
図3: 2016年1月〜2026年8月31日のドル円日足終値。橙の帯が各年の9月(2016〜2025年の10回/出典: Yahoo Finance日足)
③ 月内では前半が弱く、後半が強い
月をさらに割ると、20年通しての偏りが1つ見つかります。9月の前半(1〜15日)は平均 −0.09%・陽線率40%、後半(16日〜月末)は平均 +0.45%・陽線率60%で、円高方向の動きは月の前半に寄っていました(いずれもn=20)。営業日ごとの平均パスでも、前半10年は10営業日目あたりから水面下に沈み、直近10年は同じあたりから上に伸びています。19営業日目時点の平均は全20年が 100.31、2006〜2015年が 99.79、2016〜2025年が 100.83(月初終値=100)でした。
図4: 9月の月内平均パス(月初終値=100・最初の19営業日/出典: Yahoo Finance日足・2006〜2025年)
注意点:n=20という薄さと、集計の定義
いちばん大きな限界はサンプル数です。9月は1年に1回しか来ないので、20年集めてもn=20、10年ずつに割ればn=10。標準偏差が2.06%ある系列で平均が±1%台ずれても、統計的にはっきりした差とは言えません。前半10年と直近10年の反転も、「アノマリーが変質した」と読むより「もともと安定した偏りが無かった」と読むほうが素直かもしれません。
集計の定義にも注意が必要です。ここでの月次騰落率はYahoo Financeの日足(JST日付)の月初終値→月末終値で、業者チャートの月足(ニューヨーク時間区切り)とは端の1本がずれることがあります。また9月には米雇用統計・FOMC・日銀会合・四半期末のロンドンFIXがすべて含まれるため、実際の値動きの大半はイベント側の要因です。季節性はあくまで背景であって主役ではありません。
直前の8月がわかりやすい例です。20年平均は−0.40%・陽線率47%の「円高寄りの月」でしたが、2026年の8月は+1.54%の円安で終えました(8月3日終値157.58円→8月31日終値160.00円)。アノマリーが毎年当たるわけではないことは、直近の1ヶ月がそのまま示しています。
9月の月別統計や年間の平均パス、週明けの窓・連休の値幅といったカレンダー系のデータはカレンダーアノマリーDBで毎日更新しています。今のドル円が理論値に対して割高か割安かは割高・割安メーター、当日の想定レンジや主要レベルは今日の値動きマップで確認できます。9月に入ってからの実際の推移と、この記事の統計を突き合わせてみてください。
※本記事は公開データにもとづく情報提供であり、投資助言ではありません。売買の判断はご自身の責任でお願いします。(2026年8月31日時点のデータで作成)

