日銀はなぜ利上げしない?遅い理由と「できない」説を日銀の決算で確認

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こんな疑問を持つ方へ
  • 物価が上がっているのに、日銀はなぜ利上げしないの?
  • 「日銀は利上げできない」と言われるのは、国債や借金のせい?
  • 利上げすると日銀が赤字や債務超過になるって本当?
  • 利上げしないと、円安や物価はどうなる?

日銀は利上げをしていないわけではなく、2024年3月のマイナス金利解除から2026年9月までに6回利上げし、政策金利は1.25%になりました。ただしそのペースは、米国・英国・ユーロ圏の利上げ局面の3分の1以下です。この記事では、日銀が慎重な理由(物価・景気と市場)と、国債・利払い・日銀の財務を理由に「できない」と言われる説を、日銀の決算や財務省の予算の数字、当サイトの政策金利データで確かめます。

日銀はなぜ利上げしない?実は2024年から6回上げている

回日銀が利上げを決めた日政策金利前回からの間隔
1回目2024年3月19日−0.1%→0〜0.1%(マイナス金利の解除)―
2回目2024年7月31日→0.25%約4か月
3回目2025年1月24日→0.5%約6か月
4回目2025年12月19日→0.75%約11か月
5回目2026年6月16日→1.0%約6か月
6回目2026年9月18日→1.25%約3か月

※日本銀行「金融政策決定会合の決定事項」より。政策金利は無担保コールレート(オーバーナイト物)の誘導目標

「日銀は利上げしない」と言われがちですが、実際には2024年3月から2026年9月までに6回利上げしています。1回の上げ幅は0.25%ほどと小さく、間隔は3か月から11か月とまちまちです。

それでも「遅い」と感じる人が多いのは、物価が上がっている割に金利が低いままだからです。政策金利1.25%は、物価の上がり方(2026年8月の生鮮食品を除く消費者物価で前年比+1.7%)を差し引いた実質金利で見るとまだマイナスです。日銀自身も2026年9月の声明で、引き続き政策金利を引き上げていく考えを示しています。

日銀が慎重な理由は、大きく分けて次の3つです。日銀が公式に説明しているのは①と②で、③は市場や報道で指摘されている理由です。

  1. 物価:日本のインフレは米欧ほど強くなく、2%が続くかを見極めている
  2. 景気と市場:急な利上げで株価や景気が崩れるのを避けたい
  3. 利上げのコスト:国の借金の利払い、日銀の財務、住宅ローンなどへの負担

利上げが遅い理由①物価:日本のインフレは米欧より弱かった

国・地域物価の上昇率のピーク中央銀行の利上げ(直近の局面)
米国9.1%(2022年6月・消費者物価)16か月で+5.25%
英国11.1%(2022年10月・消費者物価)20か月で+5.15%
ユーロ圏10.6%(2022年10月・消費者物価)14か月で+4.5%
日本4.2%(2023年1月・生鮮食品を除く消費者物価)30か月で+1.35%

※物価は各国の統計機関の公表値。利上げ幅はBISの政策金利データと各中央銀行の発表をもとにしたhiro-fx.comの集計

米国や英国では物価が一時9〜11%も上がり、中央銀行は急いで金利を5%前後まで上げました。日本の物価のピークは4.2%で、しかも輸入品の値上がり(円安や資源高)による部分が大きいと日銀は見ていました。

日銀が目指しているのは、物価が2%前後で安定して続く状態です。輸入品の値上がりは一時的で、賃金が上がって物価も上がるという流れが根付かないと、利上げで景気を冷やしたあと物価が下がり始めるおそれがあります。この「基調的な物価」が2%に届くかを確かめながら、少しずつ上げてきたのが日銀の説明です。

物価の伸びが2%を下回る月もある

2026年8月の生鮮食品を除く消費者物価は、前年比+1.7%でした(電気・ガス料金の補助などで伸びが縮小)。生鮮食品とエネルギーを除くと+1.9%です。物価の伸びが2%を下回る月が出てくると、急いで上げる理由は弱くなります。

利上げが遅い理由②景気と市場:2024年8月の株価急落と2025年の関税

時期できごと日銀の利上げへの影響
2024年7月31日日銀が0.25%へ利上げ―
2024年8月5日日経平均が1日で4,451円(12.4%)下落。過去最大の下げ幅8月7日に内田副総裁が「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません」と講演
2025年1月24日0.5%へ利上げ―
2025年米国の関税政策で世界経済の先行きが不透明に影響を見極めるとして、約11か月利上げを見送り
2025年12月〜2026年9月0.75%→1.0%→1.25%約9か月で3回と、ペースが上がった

※日本銀行の公表資料、日本経済新聞などの報道より

利上げのペースを左右してきたのは、市場と景気の反応です。2024年7月の利上げの直後、米国の景気不安も重なって円高と株安が一気に進み、8月5日には日経平均が過去最大の下げ幅を記録しました。日銀はその2日後、市場が不安定なうちは利上げしないと説明し、市場を落ち着かせました。

2025年は、米国の関税政策の影響を見極めるとして、1月の利上げのあと12月まで据え置きが続きました。一度利上げして景気が大きく崩れると、また金利を下げる必要が出てきます。日銀が「急がない」のは、この失敗を避けたいからだと説明されています。

あわせて読みたい:日銀が利上げするとドル円は下がるのか?2000年以降の利上げ8回で検証

「利上げできない」と言われる理由:国債・利払い・債務超過

項目数字出典
国債の残高(2026年度末の見込み)約1,145兆円財務省(2026年度予算)
国債費(2026年度当初予算)31兆2,758億円(うち利払費は約13兆円)財務省(2026年度予算)
日銀が持つ国債(2026年3月末・簿価)530兆8,695億円日銀 2025年度決算
日銀の国債の含み損(2026年3月末)45兆4,414億円日銀 2025年度決算
日銀の国債の利息収入(2025年度)2兆5,182億円日銀 2025年度決算
日銀の当座預金への利払い(2025年度)2兆7,104億円(前年度は1兆2,517億円)日銀 2025年度決算
日銀の経常利益(2025年度)2兆3,421億円(黒字)日銀 2025年度決算

※日本銀行「第141回事業年度(令和7年度)決算等について」(2026年5月27日)、財務省の2026年度予算(nippon.comの整理)より

国の利払いが増える

国の借金である国債の残高は、2026年度末に約1,145兆円になる見込みです。金利が上がると、新しく発行したり借り換えたりする国債の金利も上がり、国が払う利息が増えます。2026年度予算の国債費は31兆円を超え、そのうち利払費は約13兆円です。

日銀が利上げをすれば、この利払いがさらに膨らむおそれがあります。これが「政府に遠慮して利上げできない」と言われる理由です。ただし日銀は、物価の安定のために金融政策を決めると説明しており、財政を理由に利上げを控えるとは言っていません。

日銀が赤字・債務超過になる心配

日銀は、銀行などが日銀に預けているお金(当座預金)に利息を払っています。この利息は政策金利に合わせて上がる一方、日銀が持っている国債の多くは、金利が低い時代に買った利回りの低いものです。2025年度の決算では、当座預金への利払い(2兆7,104億円)が、国債の利息収入(2兆5,182億円)を上回りました。前年度(2024年度)は利払いが1兆2,517億円で、国債の利息収入(2兆774億円)のほうが多くありました。

それでも、ETF(上場投資信託)の分配金などほかの収入があるため、2025年度の経常利益は2兆3,421億円の黒字でした。また、国債の含み損45.4兆円は、満期まで持てば損として表に出ない会計(償却原価法)です。利上げが続けば利益は細っていきますが、「すぐに債務超過で破綻する」状態ではありません。

あわせて読みたい:国債の含み損はなぜ?金利上昇で値段が下がる仕組みと日銀の45兆円

【データ】日銀の利上げのペースは米英欧の3分の1以下、利払いは0.25%で年約1兆円増

図1 利上げを始めてから最初の30か月の上げ幅 直近の利上げ局面の比較。日銀は2026年9月までの30か月、ほかは利上げを止めるまで(いずれも30か月以内) 0% 1% 2% 3% 4% 5% 6% 米国(FRB) 2022年3月〜 +5.25% 利上げ11回・16か月 英国(BOE) 2021年12月〜 +5.15% 利上げ14回・20か月 ユーロ圏(ECB) 2022年7月〜 +4.50% 利上げ10回・14か月 日本(日銀) 2024年3月〜 +1.35% 利上げ6回・30か月 データ: BIS政策金利データ・各中央銀行の発表(hiro-fx.comの集計)

図: 米国はFF金利の誘導目標の中央値、ユーロ圏は預金ファシリティ金利、英国はバンクレート、日本は無担保コールレートの誘導目標(2024年3月は0〜0.1%を0.05%として計算)。BISの政策金利データをもとにしたhiro-fx.comの集計

当サイトの政策金利データベースで直近の利上げ局面を比べると、米国のFRBは2022年3月から16か月で+5.25%、英国は20か月で+5.15%、ユーロ圏は14か月で+4.5%上げました。日銀は2024年3月から30か月で+1.35%です。期間は米国の約2倍なのに、上げ幅は約4分の1にとどまります。

最初の12か月だけで比べると差はさらに大きく、米国の+4.5%に対して日銀は+0.6%でした。

政策金利(当座預金への利息の目安)当座預金414兆円への利払い(年・単純計算)2025年度の国債の利息収入との差
0.25%約1.0兆円収入のほうが約1.5兆円多い
0.75%約3.1兆円利払いのほうが約0.6兆円多い
1.25%(2026年9月〜)約5.2兆円利払いのほうが約2.7兆円多い
1.5%約6.2兆円利払いのほうが約3.7兆円多い
2.0%約8.3兆円利払いのほうが約5.8兆円多い

※当座預金は2026年9月の平均残高413.7兆円(日銀のマネタリーベース統計、hiro-fx.comの日銀ウォッチの記録)。全額に政策金利と同じ利息がつくと仮定した単純計算で、実際には利息がつかない部分もある。国債の利息収入は2025年度の2兆5,182億円で固定して比べた。国債の入れ替えで利息収入は少しずつ増える

当座預金の残高は2026年9月に413.7兆円でした。単純に計算すると、政策金利を0.25%上げるごとに、日銀の利払いは年に約1兆円ずつ増えます。1.25%なら年約5.2兆円で、2025年度の国債の利息収入(約2.5兆円)の2倍です。

日銀が持つ国債の利回りは、2025年度の利息収入を3月末の残高で割ると約0.47%で、政策金利よりずっと低い水準です。ただし日銀は国債の買い入れを減らしており、当座預金の残高も2024年3月の540.5兆円から減ってきています。残高が減れば利払いも減るので、この表は「2026年9月の残高のままなら」という目安です。

日銀が利上げしないとどうなる?メリット・デメリット

立場利上げをすると利上げをしない(遅らせる)と
預金をしている人預金の利息が増える利息はほぼつかず、物価の上昇でお金の価値が目減りする
住宅ローンを借りている人変動金利の返済が増える返済は増えにくい
企業借入の利息が増えるお金を借りやすい状態が続く
国(政府)国債の利払いが増える利払いは増えにくい
為替(円)金利差が縮まり、円高の材料になる円安が続き、輸入品の値上がりが止まりにくい

※一般的な影響をまとめたもの。実際の動きは、ほかの国の金利や景気によって変わります

利上げを遅らせると、住宅ローンや企業の借入、国の利払いの負担は増えにくくなります。その代わり、実質金利がマイナスのままなので、円安や物価高が続きやすくなります。預金の利息より物価の上がり方が大きい状態が続くと、家計の貯金は実質的に目減りします。

反対に利上げを急ぐと、ローンの返済や企業の利払いが増え、景気を冷やすおそれがあります。日銀の利上げが「遅い」か「ちょうどよい」かは、どの立場から見るかで評価が分かれるところです。住宅ローンへの影響は日銀の利上げで住宅ローンはいつから・いくら上がる?で詳しく解説しています。

よくある質問

Q1. 日銀の次の利上げはいつですか?

A. 決まっていません。日銀は2026年9月の声明で引き続き利上げしていく考えを示していますが、時期は金融政策決定会合ごとに、物価や景気、市場の状況を見て決めます。会合の日程は日銀会合の発表時間は何時?、見送られたときの影響は日銀の利上げ見送りでどうなる?にまとめています。

Q2. 日銀が債務超過になると、円の価値はなくなりますか?

A. 中央銀行は自分でお金を発行できるため、一般の会社のように資金繰りで破綻することはないと考えられています。ただ、財務が悪化すると円への信認が揺らぐおそれを指摘する声もあります。2025年度の日銀は黒字で、自己資本比率は12.45%でした。

Q3. 日銀が国債を買うのをやめれば、利上げしやすくなりますか?

A. 日銀は国債の買い入れを段階的に減らしています。保有する国債が減ると、それに見合う当座預金も減り、利上げのときの利払いが小さくなります。ただし国債を手放すペースが速すぎると長期金利が急上昇するので、ゆっくり進められています。

Q4. 利上げすると円高になりますか?

A. 日米の金利差が縮むので円高の材料にはなりますが、決定の日にドル円が上がった例も多くあります。2000年以降の利上げでは、当日にドル円が上昇した回のほうが多いことが当サイトの検証でわかっています。

まとめ:日銀は「利上げしない」のではなく、ゆっくり上げている

  • 日銀は2024年3月から2026年9月までに6回利上げし、政策金利は1.25%。ただし実質金利はまだマイナス
  • ペースは30か月で+1.35%。米国は16か月で+5.25%と、日銀は米英欧の3分の1以下
  • 慎重な理由は、物価の伸びが米欧より弱かったこと、2024年8月の株価急落や2025年の関税など市場と景気への配慮
  • 「できない」と言われる理由は、国の利払い(2026年度は約13兆円)と日銀の財務。2025年度は当座預金への利払いが国債の利息収入を上回った
  • 当座預金414兆円で単純計算すると、0.25%の利上げごとに日銀の利払いは年約1兆円増える

日銀の当座預金や国債保有、コールレートの最新の値は日銀ウォッチで確認できます。

※この記事の情報は2026年10月9日時点のものです。主な出典: 日本銀行「金融政策決定会合の決定事項」「第141回事業年度(令和7年度)決算等について」「マネタリーベース」、財務省「令和8年度予算」(nippon.comの整理)、総務省「消費者物価指数」、米労働統計局・英国家統計局・ユーロスタットの物価統計、BIS「Central bank policy rates」。利上げ幅の比較と利払いの試算はhiro-fx.comの集計です。この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、投資を勧めるものではありません。