減税や積極財政でなぜ円安に?政府が円安を止めない理由と選挙前後のドル円

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こんな疑問を持つ方へ
  • 減税や積極財政をすると、なぜ円安になるの?
  • 消費税減税や高市政権で、本当に円安が進んだの?
  • 政府はなぜ円安を止めないの?
  • 円安を止める・円高にするには、どんな方法がある?

減税や積極財政で円安になると言われるのは、国の借金が増えて財政の信用が下がることと、日銀が利上げしにくくなることを、市場が心配するからです。ただし実際のドル円を見ると、財政のニュースでいつも円安になったわけではありません。この記事では、2025年10月の自民党総裁選から2026年8月の消費税1%の閣議決定までの5つの出来事について、前後のドル円をhiro-fx.comが集計しました。あわせて、政府が円安を止めない理由と、止めるための手段を整理します。

減税・積極財政でなぜ円安になる?市場が心配する4つの流れ

図2 減税・積極財政が円安につながると言われる流れ 市場がこう考えると円が売られやすくなる(必ずこうなるわけではない) ①借金が増える 減税の財源が はっきりしないと 国債が増える → ②信用が下がる 国債や円が 売られやすくなり 長期金利が上がる → ③利上げしにくい 政府が日銀に 配慮を求めると 利上げが遅れる → ④円の魅力が落ちる 物価に比べて 円の金利が低いまま →円売り

減税や積極財政(政府がお金を多く使う政策)は、財源を国債でまかなうと国の借金を増やします。市場が「この国の財政は大丈夫か」と心配すると、国債が売られて長期金利が上がり、円も売られやすくなります。2026年1月に消費税減税が公約に入ったときは、10年国債の利回りが急上昇しました。

もう一つの心配は日銀です。財政が苦しくなると、政府は利払いを抑えるために低い金利を望みます。日銀が政府に配慮して利上げを遅らせると、物価上昇率に比べて円の金利が低いままになり、円を持つ魅力が下がります。教科書では「財政拡大で金利が上がり通貨高」とされますが、日本ではこの2つの心配が上回り、円安と結びつけて語られています。

高市政権の積極財政と消費税減税:2025年10月からの経緯

時期出来事
2025年10月4日自民党総裁選で高市早苗氏が勝利。「責任ある積極財政」を掲げる
2025年10月21日高市氏が首相に就任
2026年1月19日衆院解散を表明。食料品の消費税ゼロを公約に入れる考えを示す
2026年1月23日衆院解散。同日、米国の当局がレートチェックをしたと報じられる
2026年2月8日衆院選で自民党が316議席。首相は翌日、財源は赤字国債に頼らないと説明
2026年4月30日〜5月6日政府・日銀が円買い介入(3日で計11兆7,348億円)
2026年7月21日骨太の方針を閣議決定。原案に日銀の利上げをけん制すると読める表現があると報じられ、「骨太ショック」と呼ばれた
2026年7月30日〜8月26日円買い介入(15兆3,993億円。日付は未公表)
2026年8月5日飲食料品の消費税を2027年4月から2年間1%に下げる基本方針を閣議決定

※報道(共同通信・各社)と財務省「外国為替平衡操作の実施状況」をもとに作成

消費税の減税は、2026年8月5日の閣議決定で、飲食料品の税率を8%から1%に下げる形に決まりました。期間は2027年4月から2年間で、国と地方を合わせて2年間で10兆円近い税収が減ると見込まれています。消費税の導入以来、税率を下げるのは初めてです。

市場が気にしているのは、減る税収の穴をどう埋めるかです。首相は赤字国債に頼らず、税の優遇措置や補助金の見直しでまかなうと説明していますが、報道では財源のめどは立っていないとされています。財源が見えないうちは、国債の増発への心配が円安・金利上昇の材料になりやすい状態です。

【データ】財政・選挙のニュースでドル円はどう動いた?5つの出来事で検証

図1 ドル円と財政・選挙の出来事(2025年9月〜2026年10月) 日銀「東京市場 ドル・円 スポット 17時時点」の日次。番号は表1の出来事、緑は円買い介入(7月30日〜8月26日は日付未公表のため期間で表示) 円買い介入 140円 145円 150円 155円 160円 165円 170円 2025年10月 2026年1月 4月 7月 10月 ① ② ③ ④ ⑤ 介入

図: 日本銀行「東京市場 ドル・円 スポット 17時時点」(2025年9月1日〜2026年10月7日)をhiro-fx.comが作図。介入は財務省の公表による

出来事直前のドル円翌営業日1週間後10年金利(1週間)
① 自民党総裁選で高市氏が勝利(2025/10/04)147.49円+2.76円+5.34円+3bp
② 衆院解散と食料品の消費税ゼロを表明(2026/01/19)157.90円+0.20円−3.79円−3bp
③ 衆院選で自民党が316議席(2026/02/08)157.18円−0.58円−3.89円−2bp
④ 骨太の方針を閣議決定(2026/07/21)162.51円+0.58円+1.23円+5bp
⑤ 飲食料品の消費税1%を閣議決定(2026/08/05)157.63円+0.12円+1.77円+4bp

※表1。ドル円はYahoo!ファイナンスの1時間足の終値。直前=出来事の前の最後の取引時間(週末の出来事は金曜のNY市場の終わり、平日は当日の東京15時)、翌営業日・1週間後はその日の東京15時。10年金利は財務省「国債金利情報」の10年で、出来事の前の営業日から5営業日後までの変化(1bp=0.01%)

はっきり円安が進んだのは①の総裁選です。高市氏の勝利で積極財政への期待と心配が一度に広がり、ドル円は翌営業日に+2.76円、1週間で+5.34円上がりました。市場の予想と違う結果が出たため、値動きが大きくなりました。

一方、②の消費税ゼロの表明では、翌日に10年金利が6bp上がって2.33%になりましたが、ドル円は+0.20円とほぼ動いていません。1週間後の−3.79円は、1月23日のレートチェックの報道で円が買われたためです。③の衆院選で与党が大勝した後も、ドル円は1週間で−3.89円と、むしろ円高になりました。

④の骨太の方針と⑤の消費税1%の閣議決定は、どちらも事前に内容が報じられていたため、翌営業日の動きは1円未満でした。財政のニュースで円安が進むかどうかは、ニュースの中身よりも「市場の予想とのずれ」と、介入への警戒などほかの材料で決まっていたことが分かります。

ただし、長い目で見ると財政への心配は金利に表れています。日本の10年国債の利回りは、総裁選前の2025年10月3日の1.667%から、2026年9月30日には3.057%まで上がりました。

円安は財政のせい?反対の見方と、ほかの原因

見方内容
財政が円安の原因財源のはっきりしない減税で国債が増える心配と、日銀への配慮で利上げが遅れる心配が円売りにつながる
財政だけでは説明できない政府の借金が少ない韓国(GDP比52%)でも、円と同じくらい通貨安が進んでいる(日本は206%)
円安の大部分は政権より前2022年の約115円から約150円への円安が大半で、その後は150〜160円が中心
ほかの原因が大きい米国の金利の高さ、新NISAなど家計の海外投資、デジタル関連の赤字

※政府債務のGDP比はIMF基準。第一生命経済研究所「韓国ウォンの下落から考える円安の背景」(2026年7月7日)をもとに作成

財政が円安の原因だという見方には、反論もあります。第一生命経済研究所は、政府の借金が日本よりずっと少ない韓国でも通貨安が進んでいる点を挙げています。財政だけを原因とするのは慎重であるべきだという指摘です。日韓に共通するのは、家計が海外の株式に投資する流れだという指摘です。

同じレポートは、高市政権のもとでの円安では、財政よりも日銀の独立性のほうが重要だとも述べています。政府が日銀に利上げしないよう求めているように見えると、利上げが遅れるという予想が広がり、円安が進みやすくなります。2026年7月に閣議決定された骨太の方針では、金融政策の具体的な手法は日銀に委ねると書き加えられました。

あわせて読みたい:日銀はなぜ利上げしない?遅い理由と「できない」説を日銀の決算で確認

政府はなぜ円安を止めない?4つの理由

理由中身
為替は市場で決めるのが原則主要7か国(G7)は、為替は市場で決まるべきだと合意している。介入は急すぎる動きを抑えるときに限られる
円安で得をする面もある輸出企業の利益や税収、訪日客の消費が増える。株価にも追い風になりやすい
介入の効果は一時的2026年は2回の局面で計27兆円超を使ったが、ドル円は150円台後半に戻った
利上げは景気に響く金利を上げれば円高に向かいやすいが、住宅ローンや企業の借入の負担が増える

※介入額は財務省「外国為替平衡操作の実施状況」(2026年4月30日〜5月6日の11兆7,348億円と、7月30日〜8月26日の15兆3,993億円の合計)

「政府は円安を止めない」と言われますが、2026年は円安を止めるための介入を2回の局面で行っています。合計は27兆1,341億円で、財務省が公表している1991年以降で最も多かった2024年の15兆3,233億円を上回ります。それでも、介入は急な動きを一時的に抑える手段で、円安の流れそのものを変える力は限られます。

また、為替の水準そのものを政府が決めることはできません。介入できるのは、投機などで相場が急に動いたと言えるときです。円安には輸出企業や税収へのプラスもあるため、政府は「水準ではなく急な変動を問題にする」という立場をとっています。

あわせて読みたい:為替介入はなぜしない?160円は介入ラインか、過去6回の水準と速さで比較

円安を止めるには・円高にするには?政府と日銀の選択肢

手段誰が効果限界
為替介入(円買い)財務省が決め、日銀が実行数時間で数円の円高も外貨準備を使う。流れは変えにくい
口先介入・レートチェック財務省・米国の当局投機の円売りを抑える実際の介入がないと効き目が薄れる
利上げ日銀金利差が縮み、円を持つ魅力が増す景気や住宅ローンの負担が増える
財政の規律を示す政府国債や円の信用が戻る減税や支出の縮小が必要になる
お金の流れを変える政府・企業国内投資・輸出・訪日客で円買いが増える効果が出るまで年単位

※一般的な整理。効果は相場の状況で変わる

円安を止める手段のうち、すぐ効くのは為替介入です。2026年4月30日の介入では、ドル円が160円台から数時間で155円台まで下がりました。ただし、5月以降もドル円は再び上がり、7月には163円台をつけています。

円高に向かう流れを作るには、日銀の利上げ、財政の規律を示すこと、海外に流れるお金を国内に呼び戻すことが必要です。2026年2月の衆院選の後は、首相が赤字国債に頼らない方針を示したことで、長期金利の上昇と円安がいったん落ち着きました。財政の説明が市場の安心につながった例です。最新の介入の記録は為替介入データベースで確認できます。

よくある質問

Q. 消費税減税で物価が下がっても、円安で帳消しになりませんか?

A. 円安で輸入品の値段が上がれば、減税で下がった分の一部が打ち消されることはあります。減税の効果は飲食料品の税率が下がる2027年4月からで、そのときの為替水準によって家計の実感は変わります。

Q. 積極財政をすると、どの国でも通貨安になるのですか?

A. いいえ。財政拡大で金利が上がり、通貨高になることもあります。通貨安になりやすいのは、借金がすでに多い国や、中央銀行が金利を上げにくいと見られている国です。

Q. 高市政権になってからどれくらい円安が進みましたか?

A. 日銀の17時時点の値で、総裁選前の2025年10月3日は147.41円、2026年7月28日には163.79円でした。ただし、この間には米国の金利や家計の海外投資など、財政以外の要因も重なっています。

Q. 円安はいつ止まりますか?

A. 分かりません。日銀の利上げ、米国の利下げ、財政への安心感などが重なると円高に向かいやすくなります。介入だけで流れが変わった例は多くありません。

まとめ:減税で円安になるかは、財政への信用と日銀しだい

  • 減税や積極財政で円安になると言われるのは、国債が増えて財政の信用が下がる心配と、日銀が利上げしにくくなる心配があるから
  • 飲食料品の消費税は2027年4月から2年間1%に下がる方針。2年間で10兆円近い減収の財源はまだはっきりしない
  • ドル円が大きく動いたのは総裁選(翌営業日+2.76円)。衆院選で与党が大勝した1週間後は3.89円の円高だった
  • 財政だけで円安が決まるわけではない。借金の少ない韓国でも通貨安が進んでいる
  • 政府は2026年に計27兆円超の円買い介入をしたが、介入は急な動きを抑える手段で、流れを変えるには利上げや財政の規律が必要

※この記事の情報は2026年10月11日時点のものです。主な出典: 日本銀行「外国為替市況」、財務省「国債金利情報」「外国為替平衡操作の実施状況」、共同通信(2026年8月5日「飲食料品の消費税1%を閣議決定」ほか)、三井住友DSアセットマネジメント「市川レポート」(2026年2月12日)、野村総合研究所 木内登英氏のコラム(2026年2月6日・7月8日)、第一生命経済研究所「韓国ウォンの下落から考える円安の背景」(2026年7月7日)。この記事は特定の政策や政党を評価するものではなく、投資を勧めるものでもありません。投資はご自身の判断で行ってください。